この記事でわかること
- 年10日以上有給休暇が付与される従業員は付与日から1年間に5日取得が義務となる
- 従業員が有給休暇取得を希望しない場合も医院側がそれを黙認することは認められない
- 時季指定や計画的付与を行使する際は、前提として就業規則等に明文化しておく
従業員に年5日の有給休暇を確実に取得させるには?
2019年4月1日付改正労働基準法により年10日以上有給休暇が付与される従業員に対して、付与された日から1年の間に5日取得させることが義務となりました。そこで、今回は年5日の有給休暇を確実に取得させるための労務管理手法にフォーカスをあて解説していきます。
有給休暇年5日取得義務とは
2019年4月1日以降、年10日以上有給休暇が付与される従業員に対して、付与された日から1年を経過するまでに5日を取得させなければならなくなっています。
日本が諸外国に比べて有給休暇の取得率が低く、また、長時間労働に起因した過労死などが社会問題として、取り上げられていたことを契機に法改正がされました。
当然、医院の正社員であれば、6か月以上継続勤務し、8割以上の出勤率があれば、6か月を経過した日に有給休暇が10日付与されます。
また、パートやアルバイトであっても(付与日数が減ることはありますが)有給休暇自体は付与されますので、多くの従業員が対象となります。
もちろん、法律によって義務化されたことから単に従業員が希望しないからと言ってその状態を黙認するようなことは認められず、取得時季の希望を聴取し、時季指定後に実際に有給休暇を取得させなければなりません。
有給休暇時季指定義務については、達成できなかった場合、30万円以下の罰金が科せられます。
これは、「1人1罪」で1人の未達成につき30万円以下の罰金が科せられるとの解釈であることから、未取得者が複数名となれば、罰金も高額化することとなります。それだけでなく、求人へのマイナスの影響や社会的な信用も低下することは想像に難くありません。
有給休暇を取得しない従業員への対応
時季指定
医療職の場合、他の職種と比べても人手不足問題は深刻で、従業員目線でも有給休暇を取得しづらいという問題があります。
そのような問題を見越して、院長が予め従業員の意見を聴き、その意見を尊重しながら、有給休暇の取得時季を指定することが可能です。崇高な職業倫理を持ち、取得を躊躇う従業員の意思を尊重することも例外なく悪いということではありませんが、そのことが災いし、法違反となってしまっては本末転倒です。
計画付与
計画的付与の留意点は各々の従業員が保持する有給休暇の「5日を超える部分」が対象となることから、例えば15日の有給休暇を保持する場合、10日間分は計画的付与の対象にすることができるということです。逆に一定の日数は従業員が自由に取得できるように残しておかなければならないということです。先行して計画的付与を活用することで、1年到達時に法違反回避の為に慌てて取得させることなく、多くの医療機関で活用が進んでいる手法です。
就業規則上の留意点
時季指定や計画的付与を行使することは問題ありませんが、前提として就業規則等に明文化しておかなければなりません。
記載方法としては下記を明文化することが適切です。
- 医院側から5日分を上限として、時季を指定する前に従業員本人の意見を聴くこと
- 従業員の意見を尊重し時季指定すること
- 実際に有給休暇を取得した際には、当該日数を年5日取得すべき日数から控除すること
- 半日単位の有給休暇を取得した際には「0.5日分」を控除すること
- 時間単位の取得は年5日取得すべき日数から控除しないこと
実務上よくある誤りで、時間単位の有給休暇の方が取得しやすいことを理由に、時単位の有給休暇を5日時季指定の対象とする医院がありますが、法律上、時間単位の有給休暇は時季指定の対象となる有給休暇の対象となっていませんので、誤った労務管理とならないよう注意が必要です。
計画的付与の就業規則における明文化も時季指定同様に、労使協定を締結し、前年度からの繰り越し分も含めて、5日を超える部分について、労使協定に定められた時期に、有給休暇を取得させる旨の規定が一般的です。
有給休暇の取得が問題となる事例として、突発的に取得せざるを得ない状態になった際に、一定数、他の従業員にしわ寄せがいくことを懸念する従業員が存在します。
しかし、計画的付与の場合、医院全体や、部門ごとなどの運用も(適正な協定を結ぶことが前提となりますが)可能なため、心理的なハードルも低くなります。
不利益変更について
これまで医院所定の休日であった日を労働日として、その日に有給休暇を取得させるという労務管理はできません。
単に本来の休日を労働日として、その日に有給休暇を当て込むことであり、法の趣旨に反し、不利益変更となります。そもそも、有給休暇の年5日取得義務の趣旨は心身のリフレッシュに寄与する有給休暇の積極的な活用にあり、結果的に働かない日数が変わらない前述の不利益変更は、法の趣旨に背く手法です。
まとめ
時季指定や計画的付与を活用することで、有給休暇5日時季指定義務の履行をすることは可能です。
しかし、前提として、いずれも可能な限り早い段階で活用しなければ、実効性がありませんので注意が必要です。