この記事でわかること

  • 原則、週の所定労働時間が30時間以上の従業員は社会保険の加入が必要
  • 医療法人の院長は、社会保険の加入者の対象となる
  • 年金事務所から社会保険の加入状況調査のお知らせが届くことがある

日本には、国民皆保険制度と国民皆年金制度があります。

全ての国民が全国の医療機関を自由に選び、公的医療を安価に受けることができます。

また、少なくとも20歳に達すると、全ての国民が公的年金制度に加入します。

医療保険と年金には、いくつかの実施主体があります。

院長と従業員も、いずれかの医療保険制度と年金制度に加入することになります。

医療保険といえば医師国保を思い浮かべる方がおられるかもしれませんが、今回のコラムでは、医院が社会保険に加入した場合について考えたいと思います。

社会保険とは

簡単に言えば、社会保険とは、健康保険と厚生年金保険のことです。

図にすると、このようになります。

社会保険に加入する人のうち、40歳以上の人は介護保険にも加入することになっています。

介護保険料は健康保険料に加算されます。労働保険も働く人にとって大切な保険です。

社会保険よりも対象範囲が広くなっています。

ですが、使用者は基本的に労働保険に加入しません。

労災保険に特別加入することが認められる場合もありますが、使用者は民間の損害保険で業務災害をカバーしてくれるものに加入することもできます。

国民健康保険と国民年金は、広い意味で社会保険と呼ばれることがあります。ですが、正確に言えば、社会保険は健康保険と厚生年金保険を指します。

社会保険加入の対象

社会保険加入対象の従業員

社会保険に加入できる従業員の基準があります。

原則として、週の所定労働時間が30時間以上の従業員は加入しなければなりません。

このような従業員を、「常時雇用する労働者」といいます。

社会保険加入対象となる事業所

・医療法人の場合

常時雇用する労働者が1人でもいれば、その者を社会保険に加入させなければなりません。注意すべきなのは、院長も社会保険加入の対象者となることです。医療法人の院長は、労働保険には加入しませんが、社会保険には加入します。

・個人事業主の場合

医療は、健康保険法3条及び厚生労働保険法6条に定める法定16業種に含まれます。

法定16業種の個人事業主の場合、常時雇用する労働者が5人以上の事業所は強制適用事業所となるので、その全員を社会保険に加入させなければなりません。そのため、クリニックの常時雇用する労働者が5人以上になれば、従業員の希望の有無にかかわらず、社会保険に加入します。

なお、現在では法定16業種を見直し、法律事務や会計事務を取り扱う士業を含めることなどが検討されています。

個人事業主で、常時雇用する労働者が4人以下または法定16業種以外の事業所は、任意適用事業所となります。

この場合、従業員の2分の1以上が同意すれば社会保険に加入することができ、これを任意包括適用といいます。その場合、同意しなかった従業員を未加入のままにすることはできず、全員を対象者にしなければなりません。

注意すべき点として、個人事業主である院長は、労働保険と社会保険のどちらの対象にもなりません。

雇用されている従業員とは異なった、「国民健康保険」へ加入する必要があります。

医療法人の院長とは異なっていますので、個人事業主である院長は、民間の医療保険に加入したり、厚生年金保険以外の年金制度を活用したりする必要があります。

社会保険の調査

年金事務所から、社会保険の加入状況を調査するというお知らせが届くことがあります。

大きく分けて、3種類の調査があります。

①適用手続きを行っていない場合に実施される調査

社会保険未加入の事業所に対し、法律上、社会保険の適用が必要かどうかを確認するために随時実施される調査です。働いている人数を確認するための源泉所得税領収証書などを添付し、未加入の人数とそれぞれの年齢や週所定時間を報告します。加入すべき従業員がいないか、チェックします。

②社会保険を新規に適用した際に実施される調査

社会保険に加入したばかりの事業所に対し、3カ月〜半年後を目安に実施される調査です。加入漏れしている従業員がいないか、チェックします。

③社会保険が適用となっている事業所に実施される調査

約4年に1回、全ての事業所に対して実施される調査です。

主に、パートや嘱託職員の加入漏れ、月額変更手続きの漏れ、算定基礎届に間違いはないか、給与から控除する社会保険料は正しいかがチェックされると考えてください。

調査の流れ

まず「健康保険・厚生年金保険の適用に関する調査」について知らせる書類が届きます。次に、書類を準備し、年金事務所に提出します。もし問題があれば、是正指導を受けるという流れです。

調査を無視すると起こり得るリスク

6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される場合があります。さらに、会計検査院等上部機関による調査が行われます。会計検査院は様々なデータを持っているため、年金事務所よりも厳しい調査が行われると考えてください。

加入すべき従業員が未加入であった場合、または加入していたが標準報酬月額の等級が誤って低くなっていた期間がある場合、2年間遡及して社会保険料を一括払いしなければなりません。例えば、40歳以上で標準報酬が20万円の従業員の場合、労使双方の負担を合計すると、医院が納付する社会保険料は月額およそ6万円です。

もしこの従業員が加入しなければならなかったことが分かり、2年間つまり24カ月遡及して加入するよう指導されると、およそ144万円の社会保険料を一括払いしなければならなくなります。

万が一、支払いできない場合、強制的な財産差押えに移行されることもあります。

社会保険の加入漏れのリスク

医院の社会保険適用届が提出されていない場合や加入すべき従業員が未加入だった場合、扶養家族の要件に達していない場合など、どのようなリスクがあるでしょうか。

前述の通り、年金事務所の調査でそれが明らかになった場合、最大で2年間遡及して社会保険に加入し、社会保険料を支払うよう求められます。

年金事務所から社会保険未加入を指摘されないとしても、それだけで安心というわけではありません。

従業員は、社会保険に加入しなかったことで、多くの損失を被ります。

例えば、本来加入しなければならないのに加入させないと、従業員が将来受け取る年金は減少します。

従業員が社会保険に加入しないと、その被扶養配偶者は3号被保険者になることができず、もし国民年金に未加入であれば、被扶養配偶者が国民年金の受給要件を満たさずに年金を1円も受け取れない可能性もあります。

さらに、従業員が障害を負った場合の障害厚生年金や死亡時の遺族厚生年金について、全く受け取れなかったり、給付額が非常に低くなってしまったりすることがあります。

以上を理由に、従業員が医院や院長を訴えることが考えられます。

損害賠償請求が認められれば、将来受け取ることができたかもしれない年金を、一時金として賠償しなければならない可能性が大きいのです。

社会保険の加入漏れは大きなリスクであることを忘れないでください。

まとめ

業種を問わず、社会保険料の負担が大変だと感じている事業所は少なくありません。

ですが、目先の経費削減のために本来加入すべき従業員を加入させないでいると、不意に足元をすくわれてしまいます。

もう一度、従業員の就業時間、標準報酬月額、社会保険料を見直し、リスクを抱えないよう細心の注意を払ってください。