この記事でわかること
- メンタルヘルスに起因する精神疾患なのかどうかを判断するために、主治医の診断を受けてもらう
- 休職制度については、予め就業規則に定めておく必要がある
- 復職の可否については、必要な情報を収集し、様々な視点から評価を行い総合的に判断する
目次
メンタルヘルスによる精神疾患になった従業員の労務管理
従業員が体調不良により遅刻や休暇が増えたり、被害妄想的な発言が増えたりした場合、メンタルヘルスに起因する精神疾患を疑う必要があります。
ストレスなどが原因のメンタルヘルスの不調により、生産的で有益な仕事ができなくなり、自分自身をコントロールすることもできなくなってしまう恐れがあります。
従業員がこのような状態になってしまった時に、どのような対応をとればよいのか。
また、メンタルヘルスに起因する精神疾患により休職していた従業員の復職について見ていきます。
従業員のメンタルヘルスケアに求められる雇用主側の対応
従業員にメンタルヘルスに起因する精神疾患の兆候が見られた場合、従業員が問題ない意思表示をしたとしても、放っておいてはいけません。
従業員のメンタルヘルスケアには、以下の対応が必要です。
①主治医の診断を受けてもらう。
従業員がうつ病などのメンタルヘルスに起因する精神疾患なのかどうかを判断するには、主治医の診断を受けることが大切です。
主治医への受診が早ければ早いほど、症状が悪化する前に正しい治療を始めることができます。
一方、受診が遅れれば遅れるほど症状が悪化しますので、早期に主治医の診断を受ける必要があります。
また、主治医の診断を受けることにより、従業員を休職させた方がよいのか 、どのくらいの期間休職をさせるべきかについて、主治医の意見を聞くことができます。
②労務環境に問題がなかったかを確認する
メンタルヘルスに起因する精神疾患の発症は、私生活によるストレスが起因の場合もありますが、医院の労務環境に問題があった場合も考えられます。
医院の労務環境に問題がなかったかどうかは、以下を確認することで明らかすることができます。
- 残業過多など長時間労働はなかったかどうか
- セクハラがなかったかどうか
- パワハラがなかったかどうか
- いじめはなかったかどうか
- 重大な事故やミスによる責任を問われなかったかどうか
- 望まない人事異動や配置転換がなかったかどうか
医院の労務環境に問題があった場合には、従業員に対する安全配慮義務を怠ったとして、損害賠償責任を問われる恐れもありますので注意が必要です。
③主治医から休職を要すると診断された場合は、休職制度の説明をする
休職制度については、予め就業規則に定めておく必要があります。
その就業規則の休職制度に従って、以下の内容について従業員に説明していきます。
- 就業規則で定められた休職の期間の説明
- 就業規則で定められた休職に関する規定の内容
- 復職については、従業員本人の希望だけでなく、医師が復職可能と診断する必要があること
- 就業規則や賃金規定に定められた休職中の給与に関する事項
- 休職中に給与を支給しない場合に、健康保険から傷病手当金を受給できるケースがあるこ
- 休職中であっても社会保険料が発生すること
- 休職中の医院との連絡方法
メンタルヘルスに起因する精神疾患で休職した従業員の復職ついて
メンタルヘルスに起因する精神疾患で休職している従業員の復職は、医院にとっても、従業員の家族にとっても非常に重要な課題です。
従業員の復職時期は、個々に応じて総合的な判断をしなければいけません。
仮に、従業員の復職に対する適切な対策が講じられなければ、復職できたとしてもまた休職になってしまう可能性が高くなります。
精神疾患で休職している従業員が円滑に復職するためには、復職までの流れを明確にしておく必要があります。
休職後の復職支援の流れ
主治医による復職可能の判断
休職している従業員から復職の意思が示された場合、主治医による復職可能という診断書の提出を求めます。
但し、主治医による復職可能の診断は、日常生活における病状の回復程度によって判断されています。
そのため、必ずしも復職後の業務遂行能力まで回復しているとは限りませんので、注意が必要です。
復職の可否の判断
復職の可否については、復職に必要な情報を収集し、様々な視点から評価を行い総合的に判断します。
・労働者の復職に対する意思の確認
・診断書の内容だけでは不十分な場合は、主治医からの意見を収集する
・病状の回復状況、業務遂行能力、就業に関する労働者の考えなどの労働者の状態の評価
最終的な復職の決定
上記の復職の可否の判断を踏まえて、事業者による最終的な職場復帰の決定が行われます。
復職後のフォローアップ
復職後は、病状の再燃や再発、新しい問題の発生などが起こっていないかなど、管理監督者による観察、支援や、フォローアップなどを行っていきます。
精神疾患で休職した従業員の復職の難しさ
精神疾患で休職していた従業員が復職した場合、以下のようなケースが多いため、簡単なことではありません。
- 主治医からの診断書は、「復職可能」となっているが、その根拠が不明であること。
- 従業員本人は、「徐々に戻していきます。」と言っていても、復職してすぐに休みだしたり、遅刻したりする。
- 出勤することだけで精一杯の状態で、最低限の仕事でさえ難しい。
復職に対して、従業員本人の考える回復程度と、本来の能力、主治医の考える回復程度、職場の期待する状態など、立場によってイメージが異なります。
復職が早すぎる場合は、結局また休職してしまうことも多々あります。
そのため、それぞれのイメージで復職を考えるのではなく、復職の基準を明確にしておくことが大切です。
復職可否の判断基準
厚生労働省の復職の手引きでは、復職可否の判断基準の例として以下を挙げています。
- 労働者が十分な意欲を示している
- 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
- 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
- 業務に必要な作業ができる
- 作業による疲労が翌日までに十分回復する
- 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
- 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
復職検討時点で最低限確認すべき事項
厚生労働省の復職の手引きでは、復職検討時点で最低限確認すべき事項として以下を挙げています。
・意欲
従業員が就業に十分な意欲を示す
・安全
1人で安全に通勤、就業ができる
・生活リズム
睡眠、覚醒に問題なし、昼寝なし
・疲労回復
疲労が翌日までに回復
・集中力、体力
負荷(勉強、読書、運動)で確認
・継続
上記状態が一定期間実行できる
・就業場所
復帰場所と上司に目途がたっている
・就業能力
業務遂行能力に懸念が少ない
・納得感
本人、会社ともに就業内容に同意
・主治医同意
就業内容を伝えた上で主治医がOK
・家族同意
就業における家族の納得、同意
・コミュニケーション
業務上支障をきたさない程度
まとめ
従業員がメンタルヘルスに起因する精神疾患になってしまった場合には、主治医の診断をできるだけ早く受けて、休職が必要なのかどうかを判断する必要があります。
また、労務環境に問題がなかったかなど原因を把握することも大事です。
休職になった場合には、復職可否についても検討する必要があります。
このように、従業員がメンタルヘルスに起因する精神疾患になってしまった場合には、難しい判断が必要なため、是非一度、プロである社会保険労務士にお気軽にお問い合わせください。
参考:
厚生労働省
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き