この記事でわかること

  • なぜ給与計算ミスが発生したのか、従業員に納得してもらう
  • 給与計算の間違いを翌月の給与で調整することは、労働基準法に抵触する
  • できる限り当月中にミスを修正しなくてはならない

給与計算のミスが発生した場合、どのように対応すべき?

毎月の重要な業務である従業員の給与計算。当然のことですが、細心の注意を払って処理することでしょう。

ですが、それでも計算ミスが発生することがあります。例えば、医院によっては、紙ベースのタイムカードや出勤簿を使っているかもしれません。手作業で集計する工程が多いと、ミスが発生する可能性は高くなるでしょう。

では、給与計算のミスが判明した場合、どのような段階を踏んで対応すればよいでしょうか。

給与の計算を間違えたときの対応

①速やかに再計算を行い、経緯を説明する

まず、速やかに再計算し、本来の給与を算出します。

そして、従業員にどのような経緯で計算ミスが発生したかを説明し、修正した給与明細を送付して、正しい金額と差額を示す必要があります。場合によっては、従業員に対するお詫びの文章も作成します。納得していただくことに努めましょう。

②金額の調整を行う

正しい給与を算出し、説明を終えたら、金額の調整を行います。

では、どのタイミングで給与の過不足を調整すればよいでしょうか。

もしかしたら、翌月の給与で調整すれば問題ないと思うかもしれません。実は、これは誤解です。

労働基準法に違反する行為となってしまいます。

賃金支払いの5原則

労働基準法第24条には賃金支払いの5原則が定められています。

通貨払いの原則

賃金は現金で支払わなければなりません。例外として、本人の同意があれば金融機関の口座に振り込むことができます。商品券などで支払うことは違法ですが、退職金を小切手で支払ったり通勤手当を定期券で支給したりすることは認められています。

②直接払いの原則

賃金は本人に直接支払わなければなりません。債権者や代理人に支払ってはなりません。

③全額払いの原則

賃金は全額支払わなければなりません。税金や社会保険料など法律上認められているものは控除することができます。社宅の家賃、社内預金、社内旅行の積立金などは、労使協定に定められている場合に限り控除することができます。

④毎月1回以上払いの原則

賃金は毎月1回以上支払わなければなりません。2か月以上の給与をまとめて支払うことはできません。

⑤一定期日払いの原則

賃金は一定の期日に支払わなければなりません。「毎月第1月曜日」などと定めることは、毎月1日から7日までの範囲で支払日が変わるため、認められません。

給与計算の間違いを翌月の給与で調整することは、上記③全額払いの原則に抵触することになります。

労働基準法第24条の違反には30万円以下の罰金が科されます。

仮に時間外手当が支払われていなかった場合は労働基準法第37条違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。したがって、給与の調整は翌月の給与まで待つのではなく、速やかに行いましょう。

本来の給与よりも不足していた場合・過払いであった場合

ではこれから、支払った給与が本来の額より少なかった場合と払い過ぎていた場合とに分けて、それぞれどのような処理をすればよいか考えましょう。

不足していた場合

まず、支払った給与が不足していた場合です。

従業員が労働の対価を全て受け取ることができていないので、全額払いの原則を満たしていないことは明らかです。この労働基準法の違反は罰則の対象です。

計算ミスが判明したなら、速やかに不足分を追加して支払いましょう。

過払いだった場合

次に、給与を過払いしてしまった場合です。

一見、翌月の給与を前払いしているようなものですので、従業員に損をさせているとも思えず、翌月の給与で差額を控除しても問題はないと考えるかもしれません。

ですが、給与から一定の金額を控除することは自由にできるわけではないことに注意が必要です。

前述の賃金支払いの5原則③全額払いの原則で説明した通り、給与から控除することができるのは税金や社会保険料などの法令で定められているもの、また労使協定で定められているものに限られています。

過払い分を後の給与から控除することを「調整的相殺」と呼びますが、これは当然にできるわけではありません。過去の裁判例では、一定の条件のもとに適法とされたこともあれば、違法とされたケースもあります。

さらに、給与を過払いすることにより、他の項目の金額が変わる場合があります。

一例として、扶養者のいない従業員の給与計算について考えてみましょう。

本来の給与は85,000円であったところ、誤って90,000円支払ったとします。

この場合、翌月の給与から5,000円を差し引くだけで調整が完了するように思えるかもしれません。ですが、令和4年分源泉徴収税額表(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2021/02.htm)によれば、90,000円の給与に対し230円の源泉徴収税額が発生しています。つまり、本来は必要ない金額が控除されてしまっているのです。これが修正されるのは、年末調整まで待たなければなりません。

そのため、過払いの場合も給与計算をやり直し、本来の金額に修正するようにいたしましょう。

万が一、従業員が「一度支払われたものは返せない」と差額の返金を拒否するなら、どうすればいいでしょうか。その差額分は従業員にとって不当利得になりますので、医院には返還請求権があります。

説得し、速やかに返還してもらいましょう。

いつまでに給与の修正を行えばよいか

ここまで、速やかに修正することを勧めてきました。では、具体的にいつまでに修正すればよいのでしょうか。

できる限り、当月中に給与の修正を完了させることが必要です。

では、計算ミスに気づくのが遅れて数か月後に修正した場合、どのような処理が必要になるでしょうか。

給与計算を誤ったまま、労働保険の年度更新、社会保険の定時決定(算定基礎届)や随時改定(月額変更届)などの手続きをすると、その後の修正に多大な手間を要します。

労働保険の年度更新は毎年3月までの給与に基づいて6月以降に手続きをします。

標準報酬月額の見直しを行うための定時決定では、毎年6月までの給与に基づいて7月1日から10日までの間に手続きをします。

固定的賃金に大幅な改定があった場合に標準報酬月額の変更を行う随時改定は、給与に変動があった3か月間の給与に基づいて手続きをします。

いずれにしても、給与計算のミスを当月中に調整できるなら、上記の手続きの修正が必要になることはありません。この点を考慮して、給与計算の調整はできれば当月中に完了させてください。

まとめ

給与計算のミスが判明した場合、速やかに修正し、不足分を追加で支払ったり過払い分を返還してもらったりする必要があります。労働基準法に定める全額払いの原則に違反しないよう、できる限り当月中に処理いたしましょう。

勤怠管理を紙ベースのタイムカードや出勤簿などのアナログ方式で行うと、どうしても給与計算のミスが発生する余地があります。

クラウドで勤怠・給与計算を管理することで、計算のミスや間違いを大幅に減らすことができます。

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