この記事でわかること

  • 通勤経路を一度認めてしまうと、撤回するには労力を要する
  • 勢いで解雇などの対応を取ると、不当解雇として法的な争いが発生するリスクがある
  • 不正受給が起こったときは、差額の返還請求を行う

通勤手当を不正受給していた場合、どうすれば良いのか?

テレワークと言う働き方が困難な医療職においては、ほぼ全ての従業員がいずれかの通勤経路を経て、それぞれの勤務場所で働くこととなります。通勤とは、自宅から医院までを公共交通機関や自家用車等を用いて通勤することですが、今回は医院における通勤手当の不正受給に焦点をあて解説します。

通勤手当の考え方

多くの医院で従業員から提出された通勤経路を認定する際に次の2点に留意します。

  • 経済的であること
  • 合理的な経路であること

複数の通勤経路が想定できる際に、いくら通勤時間が短縮できると言っても、金額が著しく高額となる経路は経済的とは言えず、また、明らかに遠回りと言わざるを得ない経路で申請された場合、合理的な経路とは言えません。

よって、従業員から申請があった際には上記の2点に立ち返り、認定することが適切です。

一度認めてしまうと、それを撤回するには労力を要します。

通勤時間と労働時間

通勤時間は労働時間にあたるのかという議論がありますが、結論としては労働時間にあたりません。

通勤とは「持参債務」とされています。

 労務の提供場所は医院内であり、医院内での労働の提供を想定した労働契約を締結していることから、通勤中は指揮命令下になく、労働契約においても通勤途上での労務提供を想定した契約は結んでいません。

しかし、社会的にも高額である医療機器の持ち運びを命じている場合は、監視の必要性や、心身の緊張感、拘束性が認められ、労働時間と認定される場合があるため注意が必要です。

不正受給のパターン

主に3つのパターンが想定されます。

・申告した経路よりも安価な経路で通勤する

・虚偽の住所を申告し、浮いた分の通勤手当を受給

・自転車等での通勤であるにも関わらず公共交通機関を利用していると申告

不正受給は、どの程度立証できるかが重要な論点です。

匿名での通報等であっても、十分な証拠がない場合や、住所の虚偽申告として処分を科すにあたっても、 積極的に虚偽の申告をし、不正受給したということではなく、単に義務付けられた報告を失念していたに過ぎない場合、重たい処分は無効とされる可能性があります。

また、通勤手当は詐欺にあたるのかという論点もありますが、前述と同様に積極的に虚偽申告をし、不正受給したということではなく、単に義務付けられた報告を失念していたに過ぎない場合、詐欺罪にはあたらないのが通常です。

不正受給があった際の対応

①差額の返還請求

原則として、差額の返還請求を行うこととなります。

従業員は本来受けられるはずであった以上の賃金を受け取っている状態であることから、差額分の請求を行うということです。

もし、一括返済が困難であれば分割返済とするなどの対応が現実的です。

②懲戒処分の注意点

注意点としては、不正受給が発覚した際には感情的な対応となってしまい、勢いで解雇を言い渡すなどの対応を取ってしまうと、不当解雇として法的な争いが発生するリスクがあることから、感情的な対応とせず、労使間で話し合いの場を設ける対応が適切です。

解雇とは労働契約法第16条に「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。

通勤経路認定の際には、医院がその認定を行うものであるため、「確認が行き届かなかった」という労務管理上の落ち度も認めざるを得ません。

少なくとも解雇を始め、懲戒処分の検討は慎重に行うべきです。

尚、懲戒については、労働契約法第15条に「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められています。

通勤手当の不正受給は悪質性の度合いにもよりますが、少なくとも話し合い抜きで処分を科すのは明らかにリスクが大きいため、注意深く判断を行いましょう。 

しかし、何も注意しないという対応は、職場秩序を保つ意味でも明らかに不適切です。

事案にもよりますが、最低でも戒告や譴責処分などの検討は必要と言えます。

尚、戒告とは従業員の非違行為等に対して口頭での注意を行い、将来を戒めることです。

譴責とは非違行為等に対して始末書を提出させ、将来を戒めることです。

懲戒処分の段階としては、戒告が最も軽い処分と位置付けられ、次に譴責となり、次いで減給や出勤停止と続き、最も重たい処分として懲戒解雇となります。

まとめ

通勤手当は就業規則等の内容にもよりますが、多くの場合、「実費補填」という考えの元、支給されています。医院としても経路の認定にあたっては、慎重な確認をするなど、不正が起こり得ない体制を構築することが健全な職場環境の形成、ひいては働きやすい職場環境の形成に繋がると考えます。