この記事でわかること

  • 業務関連の研修は、費用返還を求めることは難しい
  • 退職の自由の侵害に繋がり得るため、違約金や損害賠償を予定することは禁止されている
  • 業務に関連せず、従業員が参加を自由に決められるものは返還が有効とされる可能性がある

社会的にも人命救助が命題とされる医療業界では、日々新たな知見を得るために進歩する医療技術等の研修受講が日常的に行われています。

しかし、医療技術等に関する研修は、有料であることが多いのが現状です。

例えば、ある従業員に将来への期待を込め、有料研修の受講をさせたものの、研修受講後にすぐ退職した場合、研修費を請求はできるのでしょうか。

賠償予定の禁止

労働基準法第16条に労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています。

この条文の意味するところは、違約金制度や損害賠償予定の制度が労働の強制にあたるため、従業員の自由意思を不当に拘束し、退職の自由を侵害することに繋がり得ることから、違約金や損害賠償を予定することを規制するということです。

尚、「違約金」とは従業員が労働契約を遵守しない場合に予め約束していた金額を取り立てることができるというものであり、「損害賠償額の予定」とは、債務不履行時に賠償すべき損害額を現実に生じた損害額に関わらず一定の金額として定めておくことです。

 

仮にこのような定めが有効であった場合、都度損害額を証明しなくても予め定めておいた金額を請求できますが、そのような定めがあっては従業員が委縮してしまうことが想定されます。

そして、実損害額よりも多額の支払いが生まれることもあり得ることから、賠償額や違約金を定めることは禁止されています。

                                        

研修費用を返還する旨の就業規則・誓約書

就業規則に、研修費用の返還についてのルールが定められていたり、従業員に誓約書を提出させているような場合があります。

上記の「賠償予定の禁止」に則って、従業員の自由意思を不当に拘束し、退職の自由を侵害することに繋がり得る場合は無効となります。

ですが、従業員の退職の自由を侵害しない場合、返還についてのルールに有効性が認められる可能性が高くなります。

従業員の自由意志で研修に参加している場合

研修を受講するか否か従業員自身が自由に決められず、研修を受けることが実質的に義務付けられていたような場合、費用返還の定めは無効と判断される可能性が高いと言えます。

研修内容が、通常の業務時間中に必要な知識や技能であり、受講しなければ医療機関や患者が損害を被る可能性が高いため、従業員に選択の余地がない場合などは、参加の自由決定がなされていないと判断されます。

社外の勉強会の費用を負担する「福利厚生」としての制度である場合は、受講するか否かは従業員自身が自由に決めることができるため、費用返還の定めが有効と判断される可能性があります。これは、必ずしも通常の業務時間中に必須の知識とは言えず、業務とは直接的な関係性が薄いためです。

研修内容が業務と関連している場合は返還を求めるのは困難

業務との関連性が深い場合、業務遂行上避けて通ることのできない部分であり、本来、その費用を負担する立場にあるのは医院側になります。

よって、退職を機に返還を求めることは困難です。

一定の勤続期間を満たすと返還が免除される制度

また、特定の医療機関では業務と密接に関連しない研修に対しても受講を奨励しており、一定の勤続期間を満たすと返還が免除される制度を採用する場合があります。

注意点として、あまりにも長期間の勤続期間を採用すると、法的な争いとなった際、退職の自由を不当に侵害していると判断される場合があります。

他の医療期間の動向も加味し、決定していくことが適切ですが、実務上5年を超えると長いと判断される傾向があります。

 

返還対象となる研修については、予め就業規則などに記載し周知しておくことが重要です。

クラシコメディカルでは医療業界の働き方に精通した社会保険労務士がサポートいたします。

   

医院目線では早期に退職されると、単に「利用された」と感情的になり、返還を求められた従業員側としては「聞いていない」となり、議論が嚙み合わなくなりますので、そのような事態を回避するためには事前の周知が極めて重要です。

 

また、「研修費用を返還しないから退職させない」という対応は問題となります。日本国憲法第22条で定める職業選択の自由を侵害していると判断されるためです。

仮に返還対象となるような研修費用の場合、退職は認めつつも研修費用は返還してもらうという手続きを取ることが適切です。

一括返還を求めるとなると経済生活に大きな影響を及ぼす場合、分割返済とするのか等は労使双方で十分に協議しましょう。現実的に一括返済が困難との申し出があったとしても退職自体は認め、返済時期や具体的な返済方法(一般的には月に1回・医院指定口座へ振り込み)を取り決めることが適切です。

まとめ

医療の進歩は目覚ましく、今や人生100年時代と言われており、社会的にも医療従事者には様々な知識や技能の習得が求められています。

知識・技術の習得のため、研修に参加することは避けられないことかもしれません。

 時代の変化に対応するためにも研修は必要ですが、発生する費用などの取り決めに関しては予めどうするかきちんと確認をしておく必要があります。

研修については時代の流れには抗えずオンライン化の方向が加速しています。その場合、医院内でも受講ができる場合もあり、業務と並行して受講できてしまうことから、十分に学習できなかったという声もあります。研修にあたっては、返還の有無以前に、十分な知識の吸収と医院への還元が目的であるはずですので適切なシフト配置なども留意すべき点です。