この記事でわかること

  • 感染症法上の分類によって就業制限の有無が分けられている
  • 就業制限がない場合、休業を指示すると休業手当の支給をしなければならない
  • コロナに罹患した従業員は感染症法で就業が禁止されている

感染力の強い病気に罹患した従業員への対応とは?

インフルエンザやコロナは感染力の強い疾病です。

従業員がこれらに罹患した場合、そのまま出勤すると他の従業員が感染したり、医院の中でクラスターが発生したりするリスクがあります。このリスクを避けるため、従業員を休ませる必要があります。

では、院長はどのように対応すればよいでしょうか。また、その間の従業員の給与はどのように補償されるのでしょうか。

感染法上の分類と就業制限との関係

まず、感染症と労務管理の関係をまとめてみましょう。

感染症について注目すべきなのは、感染法上の分類です。この分類に応じて、就業制限の有無が決まります。

詳細は、厚生労働省 感染症法における感染症の分類をご覧ください。

例えば、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)などの五類に分類される疾病には、就業制限はありません。

なお、診療を受けると通常の医療保険が適用されるので、窓口で自己負担分を支払います。

一方、新型インフルエンザ等感染症に分類される疾病には、都道府県知事が必要と認める場合に就業制限が課されます。また、医療費は全額公費負担なので、自己負担はありません。これは、一類と同様の取り扱いになっています。

では、感染法上の分類が労務管理にどのように影響するのでしょうか。

院長としては、感染症に罹患した従業員を休ませたいと考えます。

しかし、都道府県知事が就業を禁止していないのに院長が出勤停止すると、院長は休業手当を支払う義務を負います。

従業員は休業手当の代わりに有給休暇を取得したり、傷病手当金を受給したり、就業規則に定めがあれば病気休暇を取得することもできます。

ですが、都道府県知事が就業を禁止していれば、院長が出勤停止を命じても休業手当を支払う義務を負いません。この場合、従業員が有給休暇を取得でき、傷病手当金を受給でき、就業規則に定められていれば病気休暇を取得できるのは上記の場合と同様です。

この原則を覚えておけば、今後新しい病気が出現したり、既存の病気の感染法上の分類が変更されたりしても、どのような対応が適切か判断することができます。

従業員がインフルエンザにかかった場合の対応

季節性インフルエンザは、感染法では五類に分類されています。前述の通り、就業は制限されていません。ですが、他の従業員へ広がってはいけませんので、院長はインフルエンザに罹患した従業員を休ませたいと思うことでしょう。

従業員自身も医療機関に勤務していますので、多くの場合、休む必要があることを認識していると思います。

では、万が一その従業員が出勤を希望した場合、院長はどうすればいいでしょうか。

院長は、理由を説明した上で休業を指示することができます。

ただし、この場合は病院都合で従業員に休業してもらうこととなり、院長は休業手当を支払わなければなりません。

休業手当の金額は基本的に給与の100分の60になりますので、利用できるなら年次有給休暇を取得する方が従業員にとっては有利になります。社会保険に加入している従業員の場合、3日間の待機期間を経た4日目以降は傷病手当金を申請することもできます。

安全配慮義務について

そもそも、院長は、感染法上の分類で就業が制限されていない疾病に罹患した従業員を出勤させてもよいのでしょうか。

ここで問題になるのが、安全配慮義務です。

安全配慮義務について、労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

従業員は、院長から指定された場所で指定された業務を行います。

ですから当然のこととして、院長には、従業員がその業務の場所や内容によって危険にさらされないよう配慮する義務を負っています。そのため、従業員の誰かが感染症に罹患した場合、それが他の従業員に広がらないような措置を講じる義務があります。

具体的には、就業規則において、感染症に罹患した従業員は出勤停止になる旨を定めるのがよいでしょう。

年次有給休暇とは別に、病気休暇を設けることもできます。病気休暇を有給とするか無給とするかは任意です。一定期間における休暇日数の上限、診断書の提出義務、賃金の支払いについて就業規則に定めることにより、休暇を取得しやすい環境を整え、ひいては医院内に感染症が広がることを抑えることができます。

従業員がコロナにかかった場合の対応

原稿執筆時点において、新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)は新型インフルエンザ等感染症に分類されています。

このように分類されている限り、コロナに罹患した従業員は感染症法で就業が禁止されます。

この場合、インフルエンザと異なり病院都合の休業ではありませんので、休業手当の支払い義務は生じません。

この点が最も大きな違いとなります。

インフルエンザと同様、年次有給休暇を取得したり、就業規則に定められていれば病気休暇を取得したりすることができます。

社会保険に加入している従業員の場合、3日間の待機期間を経た4日目以降は傷病手当金を申請できる点も同様です。

ちなみに、コロナに罹患した従業員の傷病手当金の利用要件について、協会けんぽ神奈川支部が「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金について」という資料を公開しています。

これによると、自覚症状がある場合には傷病手当金の支給対象になり、自覚症状がない場合にはPCR検査で陽性の結果が出たケースに限り傷病手当金の支給対象になります。PCR検査で陰性の結果が出た日以降の休業や、自己判断により医療機関を受診せず自宅療養した場合の休業は対象外となることに注意が必要です。

医療機関の逼迫により受診できない場合には、発病時の状況をメモしておき、それに基づいて申出書を作成することになります。

予防接種について

感染症が医院の業務に及ぼす影響を考えると、院長は従業員に予防接種を受けさせ、少しでもリスクを抑えたいと考えることでしょう。

ですが、病院は予防接種を従業員に強要することはできません。

コロナワクチンは全額公費負担で行われており、多くの医療関係者が接種しています。

インフルエンザのように予防接種が自己負担の場合、病院がその費用の全部または一部を負担することにより、インセンティブを設けることができます。

病院がその予防接種を業務上必須とみなし、全従業員を対象にして希望者全員の費用を負担することにより、福利厚生とすることができます。

まとめ

従業員が感染症に罹患した場合、院長は何をすべきかを整理しました。

その感染症が感染法上のどの分類に該当するものかに注目してください。就業制限の有無に応じて対応し、病院内に感染が広がらないよう対処しましょう。休業期間中も一定の給与の補償が受けられるよう手続きに協力し、治療に専念できるよう環境を整えましょう。