この記事でわかること

  • 税法上の扶養・社会保険上の二種類があり、年収や労働時間によって受けられる控除が変わる
  • 区切りとなる額は年収「103万」「106万」「130万」「150万」の四種類
  • 社会保険上では交通費や賞与も年収に含まれるが、税法上では交通費は一定額までは非課税

社会的にも多様な働き方が推進されており、それは医院でも例外ではありません。

一例として入社段階から正社員ではなく、パートとしての雇用を希望する方も多くいます。

夫婦共働きなどの場合、パートとしての雇用を希望する理由の一つとして「扶養の範囲内で働くため」という理由が挙げられます。

今回は、「扶養の範囲内で働く」とはどういった働き方になるかを解説していきます。

扶養の範囲内で働くとは?

従業員より「扶養の範囲内で働く」旨の希望があった段階で、「扶養の範囲内で働く」という意味が何を指しているのかを確認する必要があります。

なぜなら扶養で受けられる控除には、所得税や住民税に関する税法上の扶養・健康保険や年金に関する社会保険上の二種類があり、従業員の年収や労働時間によって、受けられる控除が変わるからです。

配偶者の扶養内で働くにあたって、一般的に「〜万の壁」と呼ばれる、区切りとなる額は年収「103万」「106万」「130万」「150万」の四種類です。

それぞれの壁の意味を誤解されているケースも少なくありませんので、医院側と認識のすり合わせをすることが適切です。

医院で労働時間を管理すること自体は問題ありませんが、先行的に収入の管理は、扶養の範囲内で働く従業員ご自身で管理していただく旨を伝えましょう。

医療という業務の特性上、多くの医院で突発的な時間外労働が発生することは珍しくありません。繁忙期や パートの人員が増えた場合、全員分を継続して管理していくには相当の労力が必要です。

特に医療はチームで行うことが多いことから、雇用形態の違いによって、残業の有無など差が生じるのは周囲の納得感を得られないことが予想されます。よって、労働契約内容自体に余裕を持たせておく(例えば少しの時間外労働が生じただけで一定の年収を超えてしまうおそれがあるような契約内容としない)などの対応が考えられます。

「年収」に含まれる費用とは

社会保険上では基本給はもちろんのこと、交通費や賞与も年収に含まれます。

しかし、税法上では交通費は一定額までは非課税となっています。

詳しくは、国税庁の「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」をご覧ください。

また、税法上の扶養では1月1日からの1年間という考え方に対し、社会保険の扶養は考え方が異なります。

社会保険の扶養では、扶養に入った日から1年間という計算になります。

例えば、前職を5月に退職した時に既に130万円を超えていたとしても、その後6月から扶養に入れば、社会保険の扶養としては来年の5月までの1年間という単位で計算されるため、社会保険の加入義務は生じません。

尚、税法上は非課税とされる遺族年金や失業給付や傷病手当金は社会保険上では収入の範囲に含まれます。

103万円の壁

所得税が発生するか否かは、103万円の壁が基準となります。

法改正により年収が150万円以下であれば(パートで働く配偶者の年収が1,220万円以下であることが要件)、満額の税控除を受けられるようになりました。しかし、所得税が発生するか否かはこの壁が基準となる点は改正前後で変更はありません。

106万円の壁

「社会保険の適用拡大」により2016年10月以降、新たに生まれた壁となります。

法改正により、以下の要件に合致する場合、パートやアルバイトであっても社会保険へ加入しなければならなくなっています。 

  • 501人以上の事業所であること(2022年10月の改正では、101人以上の事業所へ変更)
  • 継続して1年以上雇用見込み(2022年10月の改正では、継続して2か月を超えて雇用見込みへ変更)
  • 報酬の月額が88,000円以上
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でないこと

社会保険が適用されている小規模のクリニックなどは従業員数が500人以下の場合が一般的ですので、現状では適用拡大の範囲には含まれないことが多いでしょう。

社会保険の適用拡大については、現役世代の減少など様々な要因が絡まり合い、段階的に進められており、直近では2022年10月に更なる改正を迎えます。

改正では、101人以上の事業所であることや継続して雇用される期間が1年間から2ヶ月以上へ引き下げられます。

なお、社会保険が適用されている小規模のクリニックであっても週および月の所定労働時間が正社員の4分の3以上のパートは社会保険への加入対象となりますので注意が必要です。

「106万円の壁」の内訳としては、「報酬の月額が88,000円以上」に12か月をかけると1,056,000円となることから、端数処理し、「106万円の壁」と呼ばれています。

130万円の壁

130万円の壁は社会保険上の被扶養者の要件です。

被扶養者として認定される要件は、生計維持要件として、被扶養者になろうとしている方の年収が130万円未満であることが要件です。仮にパートの収入が130万円以上となると従業員自身で社会保険へ加入義務が生じることから、必然的に保険料の支払いも必要となります。

医院として医師国保などに加入する場合を除き、社会保険へ加入する場合は原則として厚生年金と健康保険はセットとなります。

ですが、仮に「被扶養配偶者」として扶養の認定がされると、保険料は、配偶者が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担するため、個別に納める必要はありません。

厚生年金に加入する形ではなく、健康保険と国民年金第3号被保険者として国民年金に加入することとなり、健康保険分も年金分も被扶養者としての保険料の納付は不要となります。

150万円の壁

税法上の「配偶者特別控除」の減額が開始される基準となります。従業員の年収が150万円以内であれば、その配偶者は「配偶者控除」もしくは「配偶者特別控除」が満額で受けられます。

まとめ

人手不足と叫ばれる業種の一つが医療職です。また、必ずしも正社員のみを希望する方ばかりではなく、各々の家庭の事情により正社員よりも短い働き方を希望するケースは年々増加傾向です。副次的な恩恵(例えば扶養に入る)を享受するために、入社後であっても契約内容の変更を希望されるケースがあります。院長としての仕事は、それぞれの壁の意味を理解し、従業員各自に合った働き方を提供することが重要です。