この記事でわかること

  • まず業務指導により、態度を改善させる必要がある
  • 院長が持つ正当な人事権を行使することによっても対応することができる
  • 業務命令違反に対して解雇という処分をすることには、慎重にするべき

労働契約を結び、雇用関係に入った当事者は、それぞれ義務を負います。

従業員には労働力を提供する義務があり、院長には労働の対価として賃金を支払う義務があります。

ただし、この基本的な関係に付随し、当然求められる義務もあります。

例えば、睡眠不足の状態で出勤したり、安全面や衛生面に問題のある身なりで勤務したりして、従業員が本来の職務を十分に果たせない状況を考えてみてください。そのような状況を改める必要があることは明白でしょう。

従業員には、労働契約の本来の趣旨に沿って労働力を提供する義務があります。これを、「誠実労働義務」といいます。

では、従業員が業務命令を聞かず、「誠実労働義務」を果たしていると言えない場合、院長はどのような対応をすればよいのでしょうか。

業務命令違反をする従業員への対応方法

まず業務指導により、態度を改善させる必要があります。

業務指導は口頭で済ませるべきではありません。

業務指導したと言えるためには、その内容を客観的証拠で残す必要があります。

口頭で指導する場合でも、別途書面を交付したり、メールやチャット等の記録を残したり、録音したりして、証拠を確保してください。

従業員本人に顛末書や報告書を作成させることも、業務指導の事実を確認するものとなります。

その場合、反省文を書かせる等、不要な心理的負荷をかける必要はありませんので、ご注意ください。

さらに、業務命令に従わない従業員に対し、院長が持つ正当な人事権を行使することによっても対応することができます。

人事権の行使の例として、3つの方法を挙げます。

 ① 人事評価

人事評価により定期的に給与を改定している医院の場合、評価項目に業務命令に服しているかどうかを含め、点数を付けることができます。院長が適正に評価しないと、業務命令の無視を黙認したとされるおそれがあります。業務命令に服して勤務している他の従業員のモチベーションにも影響しますので、適正な評価をしましょう。

 ② 配置転換

配置転換は、人事権の濫用に該当しない限り、適法とされます。

院長は広い裁量権を持っていると言えるでしょう。

人事権の濫用とされるのは大きく3つの場合です。

(ⅰ) 業務上の必要性がない場合

(ⅱ) 不当な動機・目的に基づく場合

(ⅲ) 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合

事前に準備しておけば、人事権の濫用となる可能性を減らすことができます。

③懲戒処分 

就業規則に懲戒規程が定められている場合、労働契約に基づく誠実労働義務に違反した従業員は懲戒処分の対象となります。

懲戒処分の手順は以下の通りです。

1.懲戒事由となる業務命令違反を確認します。

2.該当する懲戒処分の種類を選択します。

3.就業規則に定める適正な手順を踏んで、処分します。

最初は譴責や減給という軽い処分とします。繰り返し業務命令に違反し改善されない場合、徐々に処分を重くすることになります。

業務命令に従わない従業員を直ちに解雇できるか

業務命令に従わない従業員への対応が大きな問題になるのは、どのような場面でしょうか。

それは、その従業員を解雇した場合です。

解雇は、従業員から生計の手段を奪うことになるので、最も重い処分となります。

解雇された従業員が訴訟を起こし、裁判所が不当解雇と判断すると、その判決が出るまで在籍したものとして計算された年数分の給与相当額を支払うよう命じられることさえあります。

そのため、業務命令違反に対して解雇という処分をすることには、慎重であるべきでしょう。

これは、どのような場合でも解雇できないという意味ではありません。

その解雇に①客観的合理性があり、②社会通念上相当と認められる場合に限り、懲戒処分の一環として従業員を解雇できる可能性があります。

不当解雇に該当しないか判断するチェックリスト

以下をチェックリストとして、不当解雇に当たるかどうかを判断してみてください。

  • 業務命令が有効であるか
  • 就業規則上、業務命令違反が懲戒事由とされ、懲戒処分の内容として解雇が明記されているか
  • 業務命令違反の事実が存在するか
  • 業務命令違反該当事実の内容・性質に照らして、解雇が社会通念上相当性を有するか
  • 処分に至る手続が適正であるか

業務命令違反で処分する際のポイント

業務命令の種類は多岐にわたり、その違反の程度も背景となる事情も様々です。

しかし、適正な対応をするためには、共通して押さえておくべきポイントが5つあります。

(1)業務命令に違反したことについて証拠を残すこと

業務命令を文書で出すことで、証拠を残すことができます。メールやチャットも証拠になりますが、事前に準備できるのであれば、正式な文書を作成しましょう。

(2)業務命令の拒否について従業員側の正当な理由がないこと

従業員側に、業務命令拒否の正当な理由がある場合、解雇や懲戒処分をすることはできません。

例えば、家族の介護や看護のために残業の命令に従わないことは、正当な理由による業務命令の拒否となるでしょう。

(3)業務命令の趣旨を従業員へ説明し理解を得る努力を十分行ったこと

従業員本人に顛末書を書かせたり、繰り返し説明したりして、時間をかけてでもはっきりと理解してもらう必要があります。

(4)パワハラになると判断される業務命令をしないこと

パワハラとは、「優越的な関係を背景とした言動等により業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されるもの」と定義されます。

その業務命令が、業務上で必要な範囲を超えたものでないかどうか確認しておきましょう。 

(5)軽い処分から行い、改善が見られなければ重い処分を検討する

最も重い解雇処分の前に、降格や人事異動というもっと軽い処分から行わないといけません。もはや働いてもらうことができないと判断した場合でも、院長は従業員を解雇するのではなく、退職勧奨をして従業員が自主的に退職を選択するよう促すのが良いかもしれません。

解雇無効の影響

解雇された従業員が、その処分は不当であったとして争うケースがあります。

医院には、どのようなリスクがあるでしょうか。

裁判中、医院が従業員に命令して停職させていたとすれば、敗訴した医院はいわゆるバックペイを支払う必要があります。

バックペイとは、従業員に就労の意思があったにもかかわらず、無効な解雇を主張した医院側の都合で働けなかった期間中に支払われなかった賃金相当額の支払い請求のことです。

これには、本来の給料や未払いの残業代等も含まれます。

医院が敗訴した場合には原則として金銭解決が必要になることを念頭に置き、解雇という処分を下すことには慎重であるようにしてください。

まとめ

規模の大きな医院であれば、業務命令に違反する従業員もいるかもしれません。

適切な対応をすることにより、問題を最小限にとどめることができます。

この機会に就業規則を見直し、対応の手順や必要な種類の処分が定められているか、確認することをお勧めいたします。

参考:

厚生労働省 東京労働局「通勤災害について」

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/tuukin.html